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Posted date:2015.07.13

【韓国の電子書籍】韓国電子出版学会キム・ギテ会長が分析する「韓国電子出版ビジネスの現状と課題」③(了)

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7月4日に行なわれた東京国際ブックフェア2015の「韓日修好50周年シンポジウム」に参加してきました。その第2部として「日韓電子出版シンポジウム」が開かれ、韓国電子出版学会のキム・ギテ(金基泰)会長の講演がありました。テーマは「韓国電子出版ビジネスの現状と課題」。キム会長の講演を軸に、計3回にわたって韓国の電子書籍事情に迫ります。(取材・文=呉承鎬)

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©Maria Elena

韓国電子書籍市場の課題

 

 

 第2回目は、韓国の電子書籍市場が成長していく上で、解決すべき5つの問題点――①電子書籍コンテンツの不足、②メジャーなプラットフォームの不在、③消費構造および読者層の変化に迅速に対応できず、④専用端末機の普及率の低迷が続く、⑤大手企業の電子書籍市場からの撤退、について見ました。今回は、韓国電子書籍市場の今後の課題を見ていきましょう。

 

 

「2014年2月に行なわれた市場調査機関による『韓国電子ブックおよび紙の本についてのアンケート調査』(対象:全国の満19~59歳の男女1000人)によれば、電子書籍に対する認知度は97.5%とたいへん高かったものの、実際に利用したことがあるとした回答者は44.1%で、2013年と比べて大差のない結果になっています。電子書籍市場が停滞したままであることがわかったのです」(韓国電子出版学会キム・ギテ会長、以下同)

 

 

 同アンケート調査によって、電子書籍を利用している人たちの実態が明らかになっています。まず電子書籍利用者の購入冊数は、最近1年間を基準として、「1~2冊」が51.4%で1位。次点が「3~4冊」(27.1%)となっており、電子書籍利用者であってもそれほど多くの冊数を購入していないことがわかりました。また、購入金額も「1万ウォン(約1070円)未満」が最多の56.9%で、「1~2万ウォン」(24.7%)が続きました。電子書籍を利用する8割の人が、年間2000円未満の購入にとどまっていることがわかっています。電子書籍を購入する冊数、電子書籍に使う費用ともに、かなり厳しい数字となっています。

 

 

 紙の本の場合、年間購入冊数が「1~2冊」という人は24.8%に過ぎず、また購入金額においても「1万ウォン未満」は15.3%しかいませんでした。紙の本は、「10冊以上」が18.0%、「5万ウォン以上」が11.0%もいることを考えると、電子書籍とは大きく事情が違うようです。

 

 

 電子書籍を買わない理由として多かったのは、「電子書籍自体が慣れない」(50.2%、重複回答)、「紙の本と感じが違いすぎる」(49.7%)というもの。読書といえば紙の書籍という認識が深く根付いていることがうかがえます。また、電子書籍を利用している人の意見と考えられるものとしては、「電子書籍専用端末でないと本に集中できない」(47.3%)、「読みたい本がない」(28.6%)などの声が多かったようです。

 

 

 今回のシンポジウムで詳しい言及はありませんでしたが、電子書籍の価格設定についても見直していく必要があると思われます。韓国消費者院が電子書籍利用者500人を対象に行なったアンケート調査によると、韓国の電子書籍ユーザーが最も不満を感じているのは、電子書籍の「価格」だからです。電子書籍利用者たちは電子書籍の“適正価格”について、なんと「紙の本の39.2%の価格」と答えています。紙の本が1000円なら電子書籍は390円……。紙の本の半額以下を希望する電子書籍ユーザーが多いというのは、それほど電子書籍に対する満足度が低いということを端的に表しているといえるでしょう。

 

 

 以上のような現状を踏まえて、キム会長は今後の課題について述べました。

 

 

「電子書籍市場の活性化のためには、専門端末機の普及とコンテンツの充実が“先行課題”であることがわかりました。電子書籍の改善点についても、専用端末機の値下げ(76.4%)、良質のコンテンツの増加(76.3%)の必要性を指摘する回答が多かったです」

 

 

 たしかに「コンテンツの充実」は重要な課題といえます。『韓国電子ブックおよび紙の本についてのアンケート調査』では、電子書籍と相性がいいと思われるジャンルを問う設問もありました。それによると、漫画(55.1%)と雑誌(43.3%)が上位を占めており、電子書籍に特化したコンテンツの供給が求められていることがわかりました。日本の電子書籍市場も漫画がリードしており、最近は電子雑誌も好調といわれています。

 

 

「韓国において電子書籍市場の活性化を図るためには、何よりもジャンルの偏りをなくすために、バラエティーに富み、かつ良質のコンテンツを確保することが必要です。そのためには、まず紙の本と電子書籍との統合マーケティングを実施することによって、電子書籍として本を出版することが損であるという先入観から、紙の本を好む著者側の認識を変えていく必要があるでしょう。(紙と電子による)相乗効果を強調していくべきだと思います」

 

 

「さらに、出版権および排他的発行権の同時設定のための標準契約書の活用ならびに再契約を通して、紙の本偏重型出版社が電子書籍市場に参入できるよう奨励しなければなりません。また、電子書籍に対する有名著者らの意識を高めていく努力とともに、力量ある新人作家の発掘(各種新人賞、公募)プログラムと連携しつつ、電子書籍の出版機会を増やしていく必要があるでしょう」

 

 

 キム会長は講演の最後に、『電子書籍の衝撃』の著者・佐々木俊尚氏の言葉を引用しています。電子書籍が紙の本にかわる、あるいは紙の本を補完する社会のインフラとして定着していくために必要な生態系についてです。

 

 

<電子書籍が社会のインフラとして定着するためには(『電子書籍の衝撃』から)>

  • 電子ブックを読むのに適した機器(デバイス)が普及してくること
  • 本を購入し、読むための最適化されたプラットフォームが出現してくること
  • 有名作家か無名のアマチュアかという属性が剥ぎ取られ、本がフラット化していくこと
  • 電子ブックと読者が素晴らしい出会いの機会をもたらたす新しいマッチングモデルが構築されてくること

 

 

「(佐々木氏は書籍の中で)このような条件が整えば、我々の目の前に新しい本の生態系が表れるだろうと予見しています。しかし、私の判断では、このような条件はすでにある程度整いつつあると思います。出版業者と政策当局者が既存の慣行にしばられるがために、新たな変化の兆しに気付かずにいるだけではないでしょうか」

 

 

 キム会長は今回の講演で、韓国の電子書籍市場の問題点と課題を分析しましたが、要約すれば、電子書籍に対する認識を改めることが、韓国電子書籍ビジネスにおける最大のテーマといえるのかもしれません。そして、それは日本の電子書籍市場においても、同じことがいえるのではないでしょうか。

 

 

「近年の韓国電子書籍市場は好変化の兆しが見え始めている」

 

 数々の問題点や課題を抱えながらも、成長の兆しを見せている韓国の電子書籍市場。インターネットに強い韓国で今後、電子書籍ビジネスがどのように活性化していくか注目したいところです。

 

取材・文=呉承鎬

 

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