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Posted date:2015.08.05

【インタビュー】ノンフィクションライター宇都宮徹壱さんに聞く「伝える仕事」(最終回)

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ノンフィクションライターであり、写真家でもある宇都宮徹壱さん。連続インタビューの最終回となる今回は、サッカーメディア業界の現在と課題、さらには8月1日から中国・武漢で開幕するサッカー東アジアカップについて語ってくれました。

宇都宮徹壱さん


●プロフィール
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、テレビ制作会社勤務を経て、97年に「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追い続け、積極的な取材活動を展開中。『フットボールの犬 欧麗巴 1999‐2009』(東邦出版)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。また、有料メールマガジン『徹マガ』も展開中。

“自分で作った野菜を問屋を介さずに直接お客さんにお届けできること”

―宇都宮さんらしいマスコット批評も含めて、そういったいろんなコンテンツを楽しめるのが有料課金型のメルマガ『徹マガ』ですよね。スタートしてもう何年目になりますか?

「2010年ワールドカップ前から始めたので、6年目ですね」

―メルマガはそれこそ「個人がメディア」になるわけですが、宇都宮さんはサッカーメディア業界の中でその取り組みを最初に始めた、いわば先鞭のような存在だと思います。

「いやいや、6年目ですが試行錯誤の連続ですよ。コンテンツの内容もそうですが、目下の悩みは、時間が足りないということでしょうか(苦笑)。メルマガに忙殺されるとほかの仕事の確保は難しくなるんですよ。インプットする時間はもちろん、本を出そうという余裕もなくなってしまって…。ただ、やはり続けることに意義があると思っていますし、意欲をもって取り組んでいます。有料課金制のメルマガってわかりやすく言うと、“自分で作った野菜を問屋を介さずに直接お客さんにお届けできること”です。うまい、まずいという反応がよりダイレクトに伝わってくるわけですよ。まずいと思ったらすぐ会員やめちゃいますし。それが数字としてしっかり表れるのでキビシさというものが、よりリアルに伝わってきます。だから当然、手も抜けませんし、期待に応えられるようなコンテンツを提供したいと強く思います。ネットの情報は無料という考えが定着し当たり前になっている中で、あえてお金を払ってでもメルマガを購読してくださる理由はいつくかあると思うんです。ひとつは、自分にとって有益な情報が得られること。もうひとつは書き手を応援したいとか、書き手への期待だったり。このふたつだと思うのですが、僕の場合は半々か、もしくは応援してくださっている方が多いかもしれません。そういった購読者の方々に、僕は取材成果をフィードバックしていかなければならない。どんな取材でも気が引き締まりますよ」

―サッカーメディア界では宇都宮さんのようにメルマガを立ち上げる方は増えているのですか?

「そうですね。そもそもサッカーメディア業界におけるメルマガって、浦和レッズあたりから始まったんですよ。2010年頃から活発になり、その後数年は縮小傾向にありましたが、最近また、クラブ別のメルマガが増えていますが、その大きな理由としてはJリーグ公認応援サイト『J’’sGOAL』がなくなってしまったことが大きい。『J’’sGOAL』で各クラブの番記者をしていたライターたちが、それぞれ有料課金式のメルマガを立ち上げるようになったんです。その集合ポータルサイトの『タグマ!』というサイトも立ち上がっています。登録されているJクラブの有料メルマガは10を超えていますね」

―なぜJクラブのメルマガが増えているのでしょうか。

「例えばJ1ライセンスがない水戸ホーリーホックは、一般のサッカーファンにとっては地味な存在ですが、水戸のメルマガは購読者が多いそうです。ちゃんとしたライターが取材して書いていて、サポーターが知りたい情報をまめに配信しているからでしょう。そもそも専門誌に水戸のサポーターが満足するような情報がたくさん掲載されるわけでもなく、これまでサポーターにとって貴重な情報源となっていたはずの『J’’sGOAL』もなくなってしまった今、サポーターからするとお金を払ってもクラブの情報がほしい。ある意味でニッチなところで求められていることが、Jクラブのメルマガ増加に繋がっているのではないかと思いますね」

―ただ、サッカーメディア業界全体を見渡したとき、昨今は雑誌などの紙媒体などが苦戦するなど大きな曲がり角にもあるような気がします。そうした状況に危機感みたいなものはありますか?

「サッカーメディア業界に携わるひとりとして、以前から危機感を感じていますね。そもそも僕が“書く仕事”を始めた時期はちょうどインターネットが出始めた時期で、携帯サイトなども登場し、サッカーライターになりたい若者たちに仕事が回るようになった状況でした。さらに遡ると、Jリーグができた93年頃から書き手がサッカーだけでメシが食えるようにもなった。あの後藤建生さんですら93年頃から“やっとサッカーだけでメシが食える”と思ったそうです。そういう意味では、我々のような書く仕事を生業にする者たちはJリーグに感謝ですよね。それと2002年ワールドカップ。90年代後半から2002年ワールドカップまではサッカー専門の雑誌媒体も増えて、若いライターたちがこの業界に参入しやすくなりました。こうした流れは2002年〜2005年くらいまで続いたと思うのですが、そんな中で逆風が吹いたのが2006年ですよ。ジーコ率いる日本代表がドイツ・ワールドカップで結果を残せず、あれで業界全体がガグっと落ちした。廃刊や休刊に追い込まれてしまった雑誌も出ましたからね。

―そうですね。2006年ワールドカップでの敗北はサッカーメディア業界にも大打撃を与えましたよね。

「この事実でもわかる通り、日本のサッカーメディア業界は悲しいかな、日本代表の成績がものすごく関係してくるんですね。日本代表の成績にメディアの状況も左右される。例えばイングランドは近年のワールドカップで良い成績を残せていませんが、それがかの国のサッカーメディア業界に何かしらの打撃を与えているかというと、そうでもない。しっかりビジネスが成り立っている。それはやはりフットボール150年の歴史と伝統があり、フットボールが文化として根付いているからだと思うんです。しかし、日本はまだそこまでのレベルに達していない。メディア業界のみならず、Jリーグなども含めた日本のサッカー界全体が、どうしても“代表人気におんぶにだっこ”にならざるを得ない。2010年ワールドカップでは大会前に酷評されていた岡田さんの日本代表が16強入りし、その後も代表人気が盛り上がり、紙媒体やネット媒体なども活気づきましたが、2014年ブラジル・ワールドカップでの結果はご存知の通りです。それが原因だったわけでないと思いますが、93年から週刊として頑張ってきた『サッカーマガジン』が月刊化となり、さらに『サッカーダイジェスト』が月2回の発行に軌道修正せざるを得なかったことも、サッカーメディアを取り巻く環境の厳しさを物語っていると思います。ちなみに韓国はどうですか? 専門誌はどれくらいあります?」

―韓国はサッカー専門誌が2誌だけです。『FourFourTwo KOREA』と『ベストイレブン』。いずれも月刊誌です。この2誌以外は存在しません。

「日本は『サッカーダイジェト』や『サッカーマガジン』以外にも、『フットボール批評』や『サッカーai』のような雑誌はありますよね。そういう意味ではまだままだ日本のサッカーメディアは頑張っていると思うのですが、近年増えているネット媒体も状況は決して楽観できないと思います。僕はサッカーライター講座などで参加者さんにかならず “業界の状況は厳しいよ”と、正直に言います。サッカーメディアで働きたいという夢を持っている人たちはガクンとうなだれますが、事実はしっかりと伝えなければいけないし、実際、僕の回りでも2人の若い書き手が業界から足を洗って公務員になっています。それもまた現実なわけです」

―それでもサッカーメディア業界を目指す若者はいると思います。そういった人たちに宇都宮さんからアドバイスをするなら?

「単純にサッカーを“書く”“伝える”というスキルだけを磨くだけではなく、それ以外にもいろんなオプションを身に付けることですね。例えば外国語。英語でもドイツ語でもフランス語でもいい。外国語ができれば現地取材もスムーズですし、海外の記事や書籍を翻訳する仕事もある。その積み重ねの中で、特定の国のサッカーについて強くなることかできますよね。コーチングライセンスを取得するという方法もあります。S級までとはいかなくともたとえばB級ライセンスを取得し、選手や子供たちを教えながら指導者視点に立ってサッカーを書いたり論じてみる。それは相互作用があると思うんですよ。つまり、いろんな選択肢を持ちながら、“サッカーを書く”という仕事をしていく。僕も文章と写真ですが、お互いが響きあうことで何か新しいことができているということがありますから」

AT4U2042―ところで、もうすぐ東アジアカップが開幕します。日本代表、なでしこジャパン、韓国代表、中国代表、北朝鮮代表など、東アジア4カ国の男女代表チームが中国の武漢に集り、8月1日からカップ戦を戦いいます。日本代表に期待するものは?

「日本代表は6月のワールドカップ・アジア二次予選でシンガポールに引き分けてしまいましたよね。その後、東アジアカップに臨む予備メンバー50名が発表されましたが、そこから最終メンバー23名をどう絞り込むかに注目ですよね。前回大会は、山口蛍や柿谷曜一郎などが活躍し、東アジアカップを機に日本代表に定着してブラジル・ワールドカップのメンバーになりました。そういう意味で今大会でも、思わぬ新しい逸材がブレイクするきっかけになってくれればと思います」

―韓国はどうでしょう?  宇都宮さんにとって韓国ってどんな存在ですか?

「負けると悔しいし、絶対韓国には勝ってほしい、勝たなきゃいけない! そういう存在ですよね。ま、韓国にとっても日本はそういう相手ですよね。これからもそういう関係であるべきかと思います」

―宇都宮さんは韓国サッカーに対して客観的で、ときに厳しいイメージもあります(笑)。それでネットも盛り上がるというか(笑)

「そうですか(笑)。2002年のときは韓国の反応に僕もびっくりしちゃったんです。今だったらもう少し冷静に見ることができたし書けたと思うのですが、あのときは自分たちの勝利ばかりを喜んでいる韓国の人たちに対して、“ワールドカップってそうじゃないでしょ?”という気持ちがありました。ただ、逆に2011年アジアカップでキ・ソヨンの猿マネパフォーマンスとかはそんなに騒ぐことじゃないんじゃないの?と思ってコラムに書いたら、とても多くのクレームとバッシングを受けましたね(苦笑)」

―そうなんですね。宇都宮さんが書く韓国サッカーの記事に対してはいろんな反応があるんですね。

「ありますね。特に昨今は険悪な日韓関係が続いているじゃないですか。ただ、だからこそガチの真剣勝負でスカっとしたいですよね。ワールドカップのアジア最終予選も今度こそ韓国と同じ組になってほしいと、個人的には思っていますよ。オーストラリアはもう飽きたんじゃないですか(笑)」

―東アジアカップはその前哨戦という感じになるかもしれませんね。日本にとって韓国、北朝鮮、中国と対戦することはメリットだと思いますか?

「最近は国際Aマッチ・デーであっても、ヨーロッパや南米の国を日本に呼んで試合するのが難しくなってきていますよね。そう考えると、近隣の実力国とタイトルかけて試合ができるということは重要な機会だと思います。特に東アジアカップは、男子代表だけではなく、女子代表の試合があることも良い。アジアを代表する4カ国が揃うわけですが、来年のリオデジャネイロ五輪の出場権を占う意味でも面白いと思います。リオ五輪のアジア女子出場枠は2しかなく、間違いなくその2枠を今回の東アジアカップ出場国で争うことになるでしょうからね」

―そういう意味でも、東アジアカップは楽しみですね。その東アジアカップに関する宇都宮さんのレポートも楽しみにしています。今日はありがとうございました。(おわり)

 

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