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Posted date:2015.08.06

【イルボンはライバルか】元FC東京チャン・ヒョンス インタビュー後編

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1-1の引き分けで終わった東アジアカップ2015の日韓戦。先制点を決めたのは、韓国代表のチャン・ヒョンス選手でした。U-18からU-23と年代別ユース韓国代表を務め、2013年にA代表デビューを果たしたチャン・ヒョンス。FC東京においても“試合をコントロールできるDF”として活躍しましたが、今回の日韓戦ゴールでその名はふたたび日本のサッカーファンたちに届きました。そんな彼は日本についてどんな印象を持っていたのか。FC東京時代に行なったインタビューを紹介します。(取材・文=呉承鎬)

FC東京、チャン・ヒョンス選手インタビュー前編はこちら

チャンヒョンス1

―そんな試練を経て、今年1月には韓国のA代表に初招集されました。はじめて代表に選ばれたときの気持ちは、どういうものだったのでしょうか?

 それが、実に淡々としたものでした。韓国代表になることを一つの目標にサッカーをしてきたのですが、手放しで喜ぶという感じではありませんでした。なんと言っても初めてのことですから実感がなかったし、おろおろしていたんだと思います。今の自分が韓国代表に選ばれていいのかとも思いました。でも実際に行ってみたら、感じることが多かったです。一番感じたことは、“経験の差”ですね。単純なサッカーの実力という部分ではなくて、経験が本当に重要ということを痛感しました。例えば、試合で2-0とリードしていたのに、2-3と逆転されてしまったとしましょう。僕なんかは、それはもう焦ります。早く何とかしないと、と。でも経験のある選手たちは、その状況で何をすればチームが再逆転できるだろうかを、まっさきに考えます。本当にメンタルが強い。僕は、「早く、早く」で頭がいっぱいです。あらゆる場面で、経験の差があると感じました。

 

―ワールドカップ・アジア最終予選の最終戦、イラン戦がA代表デビューの試合となりました。ボランチでの出場となりましたが。

 そこにはいろんな経緯があって…。今回の韓国代表には、センターバックの選手が何人かいました。レバノン戦のあと韓国に帰国して、まずキム・ヨングォン選手がAチームに入りました。チョン・インファン選手はもともとセンターバック専門。そこで、足下のプレーがある程度できるキム・ギフィ選手と僕は、MFもできるのではとなって。11対11の試合形式で行なう練習のときです。コーチが来て「ヒョンス、ギフィ、どちらかMFやるか」って聞いてきたのです。そのときギフィ選手は「ヒョンス、お前がやったらどうか」と聞いてきました。僕は自信がないから、「先輩がやったほうがいいのではないですか」と言った(笑)。するとコーチが「ヒョンス、お前がやってみろ」と。だからレバノン戦が終わって韓国に帰国してからは、MFの練習をしていたのです。あまり深く考えませんでした。そのポジションでやるしかないし、あくまで練習でしたから。

 

―それが本番でも…。

 そうなんです。練習でやってみると、なかなか上手くいくんですよ(笑)。それでいきなり監督が僕をAチームに入れたんです。ウズベキスタン戦ですね。もしかしたら出番があるかもと思いましたが、ボランチのイ・ミョンジュ選手はとてもうまくて、僕の出番はありませんでした。それでもその試合に勝ったから、イラン戦では少し余裕も出てきた。だから監督が僕にチャンスをくれたんだと思います。

 

―イラン戦を迎えるにあたって、韓国代表には余裕があったということですか?

 余裕と言うと誤解されてしまいそうですが、もうほとんど本大会出場は決まっていたので、ウズベキスタン戦に比べればという意味で。監督は僕に守備的な部分を求めていたと思います。イランが攻撃的に来ることはわかっていたので。

チャンヒョンス5

―公式戦にボランチで出場するのは初めてのこととおっしゃっていました。“初めてづくし”の試合を振り返ってみて、思うところがありますか?

 何よりも、負けてしまったことが悔しいです。勝てれば良かったと思います。僕自身のプレー内容については、それほど後悔はありません。自己採点すると、60点ぐらいかな。今までやってこなかったポジションだったので、ぎこちない部分もあっただろうし、当然難しさはありました。でも、まわりの選手たちがみんな上手いから、うまくサポートしてくれました。足りない40点は、自分が試合に関与した部分が少なかったと感じるからです。ボランチなので、攻撃面、守備面と、あらゆる場面にゲームに参加しなければならなかったと思います。僕は守備面ではある程度貢献できたと思いますが、もう少し攻撃面でも貢献できていればと。それができていたら、もっと良い点数をつけることができたはずです。

 

―そのイラン戦は敗れてしまいましたが、韓国代表はワールドカップ8大会連続出場という大記録を作りました。しかし、韓国のファンとメディアの反応はあまり良くないように感じます。

 8大会連続で出場するという結果よりも、試合内容で評価されていると感じます。たしかに、試合の内容はあまり良くなかったですが、選手たちは8大会連続という記録には満足していると思います。ファンの方々がもう少しだけ選手たちを温かく、見守ってくれたらありがたいですね。そうすれば、選手たちももっと奮闘できると思います。

 

―韓国代表の新監督に、ホン・ミョンボ氏が就任しました。直接指導を受けてきたヒョンス選手は、どんな印象を持っていますか。

 本当に素晴らしい監督です。説明は不要でしょう(笑)。というより説明できないんですよね。監督の下で習うと、なんだろう、なぜか、「一生懸命学ばなきゃ!」という気持ちになります。そういう、選手を惹きつけるカリスマ性があるんです。どこかのテレビ局がロンドン五輪のとき、ドキュメンタリーを撮っていました。その番組内で、選手一人ひとりに「ホン・ミョンボ監督のどこが凄いと思う?」と聞いていたのですが、選手たちの答えは、決まって「いい監督」。これだけ(笑)。言葉では説明できないと思うんです。これは経験してないと、多分わかってもらえないと思います。

 

―そこをなんとか、経験できない私たちのために言葉にしてください(笑)

 うーん、本当に選手たちを惹きつける何かがあるとしか…。でも人を惹きつける魅力を持っていながら、それを利用したりはしないんです。ただただ、選手たちが勝手に惹かれていく(笑)。みんな小さい頃から、ホン・ミョンボ監督に憧れてサッカーをやってきましたからね。そんな人の下で学べるというだけで、光栄なんです。だから選手たちは一つでも多く学ぼうとするんです。それにサッカーの教え方も、とても実用的です。僕は4バックというシステムを、ホン・ミョンボ監督から学びました。高校のときまではずっと3バックだったので。かといって、何か特別な言葉があったわけではありません。4バックとはこういうものだ、ラインの合わせ方はこうだ、と。もしかしたら当たり前の言葉なのかもしれませんが、さっきも言ったように選手は勝手にひきこまれます(笑)。やっぱり言葉では、とても説明できませんね(笑)。

チャン・ヒョンス4

―とても素晴らしい監督ということは伝わってきました。韓国代表と言えば、7月20日からは東アジアカップがあります。意気込みはありますか?

 僕の場合は、そもそも韓国代表に招集されるかどうかわかりません。もちろん少しは頭の中にはありますけれど、ホン・ミョンボ監督の頭の中には、僕はいないかも知れないですし…(笑)。こういうときは、いつも期待しないようにしているんです。オリンピック代表のときも何も期待しないで、スタッフとご飯を食べにいきました。ちょうど練習場の近くのお店で。たしかパスタを食べていました。すると、スタッフに連絡が入ったのです。オリンピック代表に決まったと。その瞬間から、パスタが喉を通らなくなりました(笑)。驚きと嬉しさからですね。

 

―それでも、韓国代表に選ばれたいという気持ちはありますよね?

 それはもちろんありますが、今はそれほど強い気持ちではありません(笑)。選ばれたら変わってくるかもしれませんが、今は、ただいい経験ができればと思っているぐらいです。だから韓日戦もありますが、具体的に意識している選手というのもいないです。まずは代表に選ばれないことには。

 

―では話が変わりますが、ヒョンス選手が考える、自分の一番の武器は何ですか?

 僕にはこれといった武器はありません。走りがとてつもなく速いとか、フィジカルが非常に強いとか、ヘディングが強いとか、キックが正確だとか、そういうのはありません。でも、大きな弱点もないと思うんです。仮にサッカーの能力を0から100で表せるとしたら、僕は、ヘディングも50、キックも50、走力も50と、全部50です。でもこれが僕の武器になるんです。総合力で勝負していくタイプだと思っています。それと、僕はキャプテンをずっとやってきました。中学校から、いえ、小学校からずっとキャプテンでした。ユース韓国代表でもキャプテンをしました。だから、リーダーシップは少しあると思います!(笑)

 

―ホン・ミョンボ監督は、Jリーグのチームでもキャプテンを務めていました。ヒョンス選手もいつかJリーグのチームでキャプテンになりたいと思うことがありますか?

 日本のチームでキャプテンをするということを、今のところ考えたことはありません。言葉の面でもそうですし、僕がキャプテンをやったら、みんなに迷惑がかかってしまいますよ(笑)。そう考えたら、本当にホン・ミョンボ監督はすごいですよね。やっぱり、一番尊敬するサッカー選手です。この気持ちは多分、一生変わることはありません。サッカー選手として心底尊敬しているから、その人間性も好きになるんだと思います。

前編

―年齢の近い韓国代表のチ・ドンウォン選手やソン・フンミン選手は、ヨーロッパでプレーしています。ヒョンス選手も将来、ヨーロッパに行きたいという考えはありますか?

 ヨーロッパでプレーしたいという気持ちはありますよ。でも、ディフェンダーだから、ちょっと難しいかなとも思います。ヨーロッパのディフェンダーは、骨格から体が違いますし。もちろんチャンスがあれば挑戦したいし、夢は見ます。日本に来たのも、将来ヨーロッパにつながるという考えもあったからです。でも、まずは日本で成功してこそ、ヨーロッパにチャレンジできると思う。だから今は、FC東京で競争の日々を送るつもりです。

 

―最後に、FC東京のファン・サポーターにメッセージをお願いします。

 韓国という日本のライバルでもある国から来たのに、とても親切に接してくれるし、応援もしてくれるし、いつも感謝しています。僕はいつもファン・サポーターを尊敬して、みなさんに喜んでもらえる選手になりたいです。ありきたりな言葉になりますが、僕にとってFC東京のファン・サポーターは、やっぱり12番目の選手です。ホームではもちろん、そう強く思うのはアウェイ戦。本当に心強いんですよ。いつも選手の後ろにはファン・サポーターがいると思っています。もっともっと頑張っていくので、これからも応援してください!(終)

 

取材・文=呉承鎬

 

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